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生前贈与と特別受益

贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日から遡って3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた時の贈与財産の価額を加算します。
また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります。(相続税法19条)

1.加算する贈与財産の範囲

被相続人から生前に贈与された財産のうち相続開始前3年以内に贈与されたものです。3年以内であれば贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算します。
したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。

2.加算しない贈与財産の範囲

被相続人から生前に贈与された財産であっても、次の財産については加算する必要はありません。

  • 贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
  • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

3.控除する贈与税額

控除する贈与税額は、相続税の課税価格に加算された贈与財産に係る贈与税の税額です。ただし、加算税、延滞税、利子税の額は含まれません。

特別受益の持ち戻し

相続発生3年以内の贈与財産は相続財産として持ち戻して計算することになります。言い換えれば相続が発生した時から3年を超えた生前贈与については、既に贈与税を納付して被相続人の財産から切り離されているものですから、相続税を計算する為の課税対象には含まれません。

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しかし民法上の処理は異なり、遺産分割の際にはそれらの財産を含めて相続分を計算しなければなりません。
このとき該当する贈与や遺贈の事を「特別受益」といい、それらを遺産に含める事を「特別受益の持ち戻し」といいます。

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1.特別受益の持ち戻し

例えば、死亡時の相続財産1,200万円、相続人は子2人(長男と長女)、相続人の子の長男が2,000万円の生前贈与を受けていた場合

民法903条1項により。相続財産は3,200万円として計算されます。これをみなし相続財産といいます。
相続人が2人なので、1人あたり相続分は1,600万円ずつとなります。

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しかし現実には相続財産が1,200万円しかないため、生前贈与を受けていない方の相続分は1,200万円だけということになります。
民法903条2項により、相続できるはずだった足りない400万円を、生前贈与を受けた相続人に対して支払ってもらうような請求はできません。

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2.持ち戻しの免除

ここで民法903条3項には、持ち戻しの免除という制度があります。
被相続人が遺言で、贈与(生前贈与、遺贈)した金額に対して、「相続のときに持ち戻さなくてよい」という意思表示することができます。
この場合、生前贈与の持ち戻しがされません。

現実に残っている1,200万円なので、1人600万円ずつ相続することになります。
2,000万円の生前贈与を受けている相続人は、トータル2,600万円をもらうことになり、一方は600万円しかもらえない結果となります。
特別受益が相続分を超えていたとしても、他の相続人に超えていた分を支払う必要はありません。

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3.遺留分

しかし特別受益が他の相続人の遺留分を侵害していた場合、他の相続人による遺留分減殺請求によって、特別受益者は遺留分を侵害した分を支払う事になります。
被相続人が「特別受益を財産に加えない」という意思を遺言で表示している場合は、特別受益を持ち戻さない事も可能ですが、それでも遺留分の制限は受けることにはなるのです。

みなし相続財産から計算すると800万円が遺留分となります。
持ち戻しを免除された結果、600万円しか手元に残らなかった相続人は、遺留分に足りない200万円を生前贈与を受けた相続人に請求できることができます。

特別受益者の相続分(民法903条)

  • 1.共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
  • 2.遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
  • 3.被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

特別受益の価値

特別受益の価値は「相続が発生した時点での価値」となります。2,000万円の土地を生前贈与で受けとた場合、相続発生時にその土地が3,000万円になっていたら、その土地の価値は3,000万円となります。

生活費及び教育費の贈与

従来からの非課税規定

贈与税の非課税財産(相続税法21条の3)

  • 次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。

    一 法人からの贈与により取得した財産
    扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの
    三 宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが贈与により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの

  • 以下略

扶養義務者(民法877条)

  • 1.直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
  • 2.家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
  • 3.前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

親が子供や孫の生活費・教育費を支出しても、扶養義務者への贈与税は非課税となります。
また別枠で毎年110万円贈与することができ、これも非課税となります。

扶養義務者からの生活費及び教育費の贈与

これらの扶養義務者に対する贈与税の非課税枠を利用して、本人と同居している子の長男夫婦家族への生活費及び教育費の贈与について考えてみます。

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  • 1.本人と同居している長男夫婦が支払うべき生活費及び教育費として、月30万円を負担します。
    毎年360万円・10年間で3600万円で無税で贈与できます。

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  • 2.長男及び嫁・孫・長女・次女の計5人に対して毎年110万円を贈与します。
    毎年550万円・10年間で5500万円で無税で贈与できます。

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  • 3.上記の贈与を組み合わせると、毎年(360万円+550万円=910万円)を無税で次世代の相続人に承継させることが出来ます。
    したがって10年実行すると9,100万円、20年実行すると1億8,200万円が非課税となります。

直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度

平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、30歳未満の方(以下「受贈者」)が、教育資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(祖父母など)から以下の要件のときに、信託受益権又は金銭等の価額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、金融機関等の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となります。

  • 信託受益権を付与された場合
  • 書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合
  • 書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合(以下「教育資金口座の開設等」といいます)

この制度を利用するには、上記のような教育資金口座の開設等が必要となります。
また教育資金の支払いを行った場合は、金融機関等の営業所等に領収書等の提出を行う必要があります。

教育資金贈与の非課税制度のパンフレット