カテゴリー別アーカイブ: 相続税

タワーマンションによる節税

タワーマンションによる節税の検証

なぜタワーマンションなのか?

  • 節税の優位性
  • 換金性
  • 投資利回りの安定性
  • 遺産分割が可能
  • ブランド性

上記のタワーマンションによる節税が優位である理由について検証してみます。

節税性の優位性

『節税の優位性』で言われている各住戸の土地持分が小さいという理由ですが、一般的に集合住宅と言われるマンション等であれば、戸建てよりは優位であり、アパート経営のように賃貸すれば節税効果が得られ、特にタワーマンションだからというわけではありません。

換金性

『換金性』については、一般的に不動産そのものは換金性がよくない資産と言われています。まして高層階ほどプレミア価格で取引され、高い価格で買っている物件をあえて安く投げ売り価格で売却するのであれば換金性は高いかもしれませんが、通常は売却して換金するには時間を要するのが普通かと思います。

投資利回りの安定性

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『投資利回りの安定性』ですが、そもそも利回りと言うのは、
毎月の賃料×12/購入価格×100=表面利回り(%)
((毎月の賃料-毎月の費用)×12-固定資産税等の費用)/購入価格×100=投資利回り(%)
毎月の費用=管理会社に支払う費用+修繕積立金
固定資産税等の費用=公租公課(固定資産税+都市計画税)+損害保険料+その他費用

と言う式になり、高いプレミア価格で購入した場合の投資利回りは、通常は悪くなるものです。
さらに、今後日本の人口が減少していく状況を考えると、毎年満室であるとは想定できず、利回りは悪くなる方向かと思います。
また最近のニュースから、下記に掲載したように政府・与党では『高層階の固定資産税と相続税を引き上げる』ことを検討されているようで、さらに投資利回りは低下するかと思います。

遺産分割が可能

『遺産分割が可能』まで理由に挙げられると、言葉を失います。
相続人の数だけマンションを買い続けるのでしょうか?
これは換金性のところでも述べましたが、一般的に不動産そのものは換金性がよくない資産であり、遺産分割しにくい資産と言えます。

ブランド性

この中でタワーマンションにこだわる理由としては、「眺望」や「希少性」を理由とした『ブランド性』くらいかと思います。
ただし都会のタワーマンションでは、ツインタワーと称するマンションが建設されたりで、10年前とは比較にならないくらいタワーマンションが乱立してきており、20階以上のタワーマンションでも近隣のマンションからお部屋が丸見えだったりして、眺望とかプライバシーとかのブランド力もだいぶ弱くなってきていると思います。
アパート・マンション経営による相続税対策でも述べましたが、実需として住まない限りは投資物件として考えて購入するのが賢明かと思います。

また最近の裁判例から『賃借人の迷惑行為を放置した賃貸人の不法行為責任が認められた事例』として、『東京地判 平17.12.14』なんていうのもアパート・マンション経営では注目する事例です。

「タワマン節税」けん制、高層階は増税へ 18年以降の新築で政府・与党方針

政府・与党は20階建て以上の高層マンションについて、高層階の固定資産税と相続税を引き上げる。
2018年以降に引き渡す新築物件が対象。一方で低層階の税負担を軽くする。高層階の部屋は取引価格が高いわりに税金が安く、富裕層の間では節税策として購入する動きが広がっていた。

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菅義偉官房長官は24日の記者会見で「実際の取引価格を踏まえた固定資産税の案分方法をいま検討している。今後の税制改正で検討する」と述べた。政府・与党は12月にまとめる与党税制大綱に盛り込むことを目指す。国や市町村の税収は現行制度を適用する場合と変わらないようにする見通しだ。

対象は大都市圏で増える「タワーマンション」と呼ばれる超高層物件で、20階建て以上を想定している。上層階に行くほど景観がよくなるため、同じ面積でも取引価格が高い。
一方で、こうした物件の固定資産税や相続税の算定基準となる「固定資産税評価額」は、マンション1棟の評価額を部屋ごとの床面積で割って計算している。階層による差はなく、同じ面積なら最上階と1階が同じ評価額となり、固定資産税や相続税も原則同額になる。

資産評価システム研究センターが全国の新築高層マンションの分譲価格を調べたところ、最上階の床面積あたりの単価は最下層階より平均46%高かった。
この結果、マンション高層階の部屋を買えば、現金のまま相続するよりも、相続税の金額も抑えやすい。富裕層しか使えない節税策として批判が高まっていた。固定資産税も取引価格の割に安くすむ。

総務省が検討している新しい評価額の仕組みは、高層マンションの中間の階は現行制度と同じ評価額にする一方、中間階よりも高層の階では段階的に引き上げ、低層の階では段階的に引き下げる。評価額5000万円の建物にかかる固定資産税は単純計算で年70万円。5500万円になれば固定資産税は年77万円に増える。


新しい税制の対象は18年以降に引き渡す新築物件に限定する。既存の物件は今の税制を適用する。現在の税負担を前提に高層階を購入した住民から強い批判が出るためだ。
20階建て以上の高層マンションは建築規制の緩和により、1999年から関東、東海、関西の三大都市圏で急増。すでに全国で1200棟を超えている。15年に相続税が引き上げられて高層マンション節税の人気が高まったことから、今回対策に乗り出すことにした。

2016/10/25 0:36日本経済新聞 電子版

「タワマン節税」はや下火? 当局が対抗策

相続税の負担を減らす目的で高層のタワーマンションを買うタワマン節税。2015年1月の相続増税を機に需要がかさあげされ「相続税バブル」と評されたが最近は下火になりつつある。首都圏の今年1月のマンション契約率は7年半ぶりの50%台に沈んだ。国税庁と総務省の二段構えの節税策封じがきっかけだ。

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高層階の評価額は平均で実勢価格の3分の1どまり(大阪市内のマンション群)

「新規のタワーマンション購入は去年より減った。国の規制強化を心配したお客からたくさん電話がかかってくる」。東京の都心部でマンション売買を仲介する営業マンは浮かない顔だ。
不動産経済研究所(東京・新宿)によると、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で1月に売り出された新築マンションの契約率は58.6%と前年同月より16.3ポイント下がり、市況の好不調の境目とされる70%を2カ月続けて割り込んだ。
契約率を押し下げたのは20階以上のタワーマンションの低迷だ。1月の契約率は32.0%となり過去10年で最低を記録した。2月以降は持ち直し傾向だが、タワマンの契約率が90%を超していた昨年夏ごろとは様変わり。価格高騰に加え「節税に使いにくくなったことが影響した」(不動産業界関係者)。

タワマン節税のしくみはこうだ。相続税の計算では、1戸あたりの土地の持ち分が小さいマンションは実勢価格より大幅に安く評価される。特に眺望の良い高層階は実勢価格が高いにもかかわらず低層階と同じ基準で評価されるため節税効果が大きい。現金のまま相続するよりも税負担は格段に軽くなる。<br>
「タワーマンション節税」という言葉は不動産仲介を手がけるスタイルアクト(東京・中央)の登録商標だ。沖有人同社社長が14年に出したタワマン節税の指南書は昨年1月からの相続税の非課税枠縮小や最高税率の引き上げでヒット作になった。富裕層向けの節税セミナーには昨年1年間で約2000人が詰めかけた。
だが、沖氏でさえ最近はタワマン節税のセミナーで受講者を集めにくくなった。3月に東京・丸の内で開いたセミナーでは、空き地を高く売る方法など幅広い話題に触れる形にした。関西でも状況は同じ。大阪市内の不動産仲介会社の男性は「『相続税対策になる』とのうたい文句は控えるようにした」と言う。

市場を揺さぶる当局の税制の変化。発端は14年秋に国税庁がひそかに実施した調査だ。全国の20階以上の住戸343物件を調べたところ、評価額は平均で実勢価格のわずか3分の1。「行きすぎだ。看過できない」。分析にあたった松山清人資産評価企画官は昨年秋、全国各局の担当者を集めた。実勢価格と評価額が乖離(かいり)しているケースや取得、相続、売却の時期が不自然に近い場合は追徴課税するよう指示した。
昨年11月には総務省の関係団体が開いた固定資産税の制度改正を議論する有識者検討会で、委員の大学教授が提案した。「タワーマンションは階数で補正をかける方法もあるのではないか」

相続税の算定基準となる「評価額」は総務省令で定めている。現在はマンション1棟の評価額を各戸の所有者がそれぞれの床面積で均等に分割するため、階層や日当たりの条件によって差がつかず一律だ。同省はこれを高層階ほど評価額が上がるように見直す検討に入った。早ければ18年にも実施される見通しだ。
ただ、国税庁の指示は追徴課税するかの基準が曖昧で、総務省の制度改正も詳細が決まっていない。税制改正への警戒感が先行している段階だ。

スタイルアクトの沖氏は「ルールが多少変わっても節税になることに変わりはない」と指摘する。「早く明確にしてくれたほうがお客に売り込みやすくなる」と語る不動産大手の幹部もいる。
15年1月からの相続増税は、タワマン節税などの新手の節税策を生み出してきた。タワマン節税封じに納税者はどう動くか。攻防はヤマ場にさしかかった。(江渕智弘)

2016/3/30 3:30日本経済新聞 電子版

アパート経営による相続対策

アパート・マンション経営による相続税対策

貸家を建てた事業用の宅地の評価額

『借地借家による宅地評価』で記載した貸家建付地の相続税評価額の計算式を再掲載します。
貸家建付地の相続税評価額=自用地としての価額x(1-借地権割合x借家権割合x賃貸割合)

  • 借地権割合

    →借地権割合は、地域ごとに路線価図により定められています。路線価図にA~Gの希望で定められており、以下の表の割合で借地権割合が決まっています。

記号
借地権割合 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30%

例えば、路線価図に225Dと記載のある道路に面した土地については、一平方メートル当たりの価額を千円単位で表示し、この場合225,000円/㎡で、借地権割合D=60%であることを示しています。

  • 借家権権割合

    →借家権割合は、全国一律で30%となっています。

  • 賃貸割合

    →例えば、アパートの部屋が10部屋あって、そのうち6部屋が賃貸で貸していて残り4部屋は空室であるような場合にはこの賃貸割合は10分の6、つまり60%となります。
    土地の上に立っている建物のうち、何%を貸しているかということを表します。厳密には貸している部屋の床面積で計算を行います。貸している部屋の合計面積が40㎡、貸していない部屋の合計面積が160㎡であった場合には、賃貸割合は200分の40となり、賃貸割合は20%ということになります。

例として次のような前提条件の土地について、貸家建付地評価を行ってみます。

  • 更地(土地)の評価額:10,000万円
  • 部屋数8部屋で満室の貸アパートの敷地。
  • 借地権割合の評価「C」の路線に面している。

貸家を建てなければ土地の評価額は1億円となります。
貸家を建てた場合の土地の評価額は、借地権割合は路線価図上の記号がCということで70%となり、借家権割合は一律30%のため、各地補正等を省略すると、10,000 x(1 – 0.7x0.3)=7,900万円となります。

貸家を建てるだけで、土地の評価額を21%下げることになります。

このことから分かるように、貸家建付地の評価は自用地としての価額よりも低くなり、何もない土地にアパートやマンションが建設されると、更地状態の場合やマイホームを建てた場合よりも相続の際の土地の評価額が下がります。
このため、相続税の節税に効果的であると言われています。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の特例

個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地(アパートの敷地)等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の、一定の割合を減額します。

相続の開始の日が「平成27年1月1日以後」の場合

相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積 減額割合
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 貸付事業以外の事業用の宅地等 特定事業用宅地等に該当する宅地等 400 80%
貸付事業用の宅地等 一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除く)用の宅地等 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 400 80%
貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200 50%
一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200 50%
被相続人等の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200 50%
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 特定居住用宅地等に該当する宅地等 330 80%

上記のように、貸付事業用の宅地(アパートの敷地)等は、小規模宅地等についての相続税の課税価格の特例により、事業用の土地として限度面積200㎡で50%減額が受けられる可能性があります。

例として次のような前提条件の土地について、貸家建付地評価を行ってみます。

  • 200㎡更地(土地)の評価額:10,000万円
  • 部屋数8部屋で満室の貸アパートの敷地。
  • 借地権割合の評価「C」の路線に面している。

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更地のまま相続した場合、土地の評価額は1億円となります。
更地にアパートを建てた場合の土地の評価額は、借地権割合は路線価図上の記号がCということで70%となり、借家権割合は一律30%のため、各地補正等を省略すると、10,000 x(1 – 0.7x0.3)=7,900万円となり、さらに小規模宅地の特例により50%評価減となり、7,900万円×50%=3,950万円となります。

貸家を建てるだけで、土地の評価額を60.5%に下げることが出来ます。

小規模宅地の特例という優遇措置を受けるためには、事業用又は居住用でなければならないため、ただの空き地(更地)の場合には優遇措置は受けることができません。

『No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)』はこちら>>

相続税対策で借入をしてアパート経営をする

借入してアパート経営するメリット

相続税対策を行うために、借金をしてアパート経営を行うという相続対策を聞くことがあります。
自己資金でアパートを購入する場合も、お金を借りてそのお金でアパートを購入する場合にも、土地の評価額を下落させることが可能です。

2,000万円借金をした場合 お金を借りた場合、現金2,000万円借入金が2,000万円となります。
相続税の金額を計算する場合、この時点で財産(お金)2,000万円-債務(借入金)2,000万円=0円となるため、この時点では相続税の計算には何も影響を与えません。
2,000万円借金をしてアパートを購入する場合 お金を借りてアパートを建築した場合、アパート2,000万円、借入金が2,000万円となります。
この場合、アパートは2,000万円で購入したにもかかわらず評価額としては、2,000万円×(1-30%)=1,400万円に評価されます。
その結果、アパートの評価額1,400万円となり、借入金は2,000万円となるため、相続税の評価額は1,400万円-2,000万円となり、△600万円を相続税の計算上マイナスすることが可能です。

借入してアパート経営をするデメリット

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2016/08/25 テレビ朝日【羽鳥慎一モーニングショー】でセレブな街が“空き家”だらけ「みんないなくなった」というニュースが放送されていました。
東京の郊外では新築空き屋物件としてたくさん建設されているようで、相続対策と称して収益性が低い場所で沢山のアパートの建設ラッシュがあり、入居率が50%程度で未入居のままの物件が多いことから新築空き屋物件というネーミングついたようです。

空室率10~20%程度でローンの返済を計画して収益物件としてアパートを建設したとしても、空室率が50%となると借入の返済が家賃収入で追い付かない状況が続き、資金繰りが悪くキャッシュフローはマイナスとなり、持ち出しになっているのではないかと思います。
相続対策のため借り入れをしたのはいいのですが、せっかく購入したアパートを借金のために手放しかねません。

また家賃保証として一括借り上げ等を謳って転貸借をしている不動産会社もありますが、契約の欄をよく見ると2~4年ごとに転貸料の見直しの項目がしっかり記載されているのが普通です。
そしてほぼ更新ごとに転貸賃料を下げる交渉をしてきます。中には元の賃貸の家賃は変わらずとも値下げ交渉していくる不動産会社もあり、実際タチが悪い不動産会社が多いのが実情です。

遠方の不動産だと、どうしても管理等を地場の業者だったり、マンションの管理会社の系列の不動産会社に委託することになりますが、実際きちんと管理されていないのが実情かと思います。
入居者が出入りする度に原状回復のための修繕を行ったりするのですが、その見積もりが管理する不動産会社の中には異常に高かったりする場合もありしてトラブルも時々発生しているようです。
私が所有している東京の物件などは、その原状回復に関する見積もりも高さに驚き、大阪から部材を運んで修繕した事も有りました。

またアパート経営の収入は事業所得となり、一般的には大家業という事業を営んでいる事になります。
そのため家賃保証として一括借り上げ等の転貸借契約もプロ対プロの契約の扱いとなるため、不動産会社と締結する転貸借契約の内容に不利があったとしても、消費者を保護するための法律関係の適用は難しい場合があるようです。

結論:相続税対策としてアパート経営をすべきなのでしょうか?

お気に入りの物件だったり、賃貸需要が高く収益性の良い物件以外は、自分で管理が出来ほど遠く土地勘のない場所だったり、あまり賃貸需要が低く収益性の悪い物件などは、人口減少が継続している日本において空室となるリスクを考慮すると、借入してまでの不動産の購入は止めておいた方が無難だと思います。

このコラムを書いた2日後の2016/9/30 3:30発信の日本経済新聞の電子版の記事を紹介します。

2016.09.30追記:アパート空室率悪化、泣くオーナー

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人口減の日本でなぜか賃貸アパートが増えている。2015年の相続税増税でアパート経営が節税策として注目され、それを追い風に建設請負業者が売り込みをかけているからだ。家賃保証などでオーナーの負担は軽いとして受注を伸ばすが、需給は崩れ、空室率は過去最悪の水準に達する。目算が狂ったオーナーは悲鳴を上げる。

■節税対策で脚光

「空室リスクは覚悟していたけど、こんなにも早く出るなんて」。千葉県白井市の男性公務員(43)は肩を落とす。相続した土地にアパートを12年に建設した。2階建てで総戸数は8戸。今年で築4年、最寄り駅から徒歩10分と条件は悪くない。だが、今年は一時、5戸が空室になった。

母親が亡くなるとほどなく大手の建設請負業者が訪れ、相続した土地にアパート建設を勧めてきた。9千万円という建設費にためらったが、担当者は「当社が全室借り上げ、入居者も集めます」と提案書を差し出した。
試算では家賃収入は年660万円。業者の取り分を差し引いて600万円強の収入が35年間続くという。銀行からの借り入れは必要だが、試算で示された月30万円程度の返済には十分。地銀からの融資も決まり、建設に踏み切った。
現実は甘くなかった。当初こそ業者から月50万円が振り込まれたが、今は40万円弱。家賃収入は空室率によって最低保証額まで引き下げられる契約だからだ。今後、定期的な契約更新で金額が変わる可能性も残る。

居住人口の少ない土地でのアパート経営に無理はなかったか。オーナーの妻(35)は後悔の念を抱きながら敷地の草むしりをする。専門業者に任せるお金はないからだ。
国土交通省によると、7月の住宅着工の伸び率は持ち家が前年比6.0%だったのに対しアパートなど貸家は11.1%。大幅増の背景にあるのは相続税対策だ。更地にしておくより借金をしてアパートを経営した方が税金が安く済むからだ。

その波に乗ったのがサブリースと家賃保証を売り物にするアパート建設請負業者だ。建設だけでなく、一括借り上げして入居者を集め、手数料を除いた家賃をオーナーに支払う。こんな提案で、大東建託やレオパレス21といった大手が続々とアパートを建設している。大東建託の16年3月期の売上高は8期連続で過去最高を更新した。

■トラブルも発生

業界が活況に沸く一方、トラブルが発生している。「空室を理由に提案通りの家賃が支払われていない」。不動産コンサルティングの青山財産ネットワークスの高田吉孝執行役員の元には、こうした相談が月に数件寄せられる。
国交省は9月から業者に対し契約時には、将来の家賃が変動する可能性があると説明するよう求め始めた。業者側は「契約書面ではリスク要因を強調している」(レオパレス21)、「賃料改定があり得ることを説明をした上で、本人の署名なつ印を頂いている」(大東建託)と適切に対応していると主張する。

言い分が分かれる中、アパートの需給は悪化を続ける。不動産調査会社のタス(東京・中央)によると首都圏の空室率は15年夏ごろから急上昇。最も高い神奈川県は7月に36.66%と過去最悪を更新し、16カ月連続で悪化した。適正水準の上限30%を大幅に上回る。

無秩序なアパート建設に行政も危機感を抱く。埼玉県羽生市では1年ほど前にアパートの建設地域を制限した。しかし、局地的に規制しても焼け石に水だ。首都圏全体でみた場合は「当面は空室率は改善しないだろう」(タスの藤井和之氏)。

空室増のあおりを受ける不動産管理会社は対策を余儀なくされている。
6万戸の賃貸住宅を管理する東急住宅リース(東京・新宿)。空室が増えれば収入減につながる。そこで7月からオーナーに従来より3割程度安く改修できる新提案を始めた。大学再編で居住学生が減少する相模原市の管理会社は入居者専用の食堂設置をオーナーに呼びかける。

空室率が悪化してもなお増え続けるアパート。建設業者にとって数少ない「成長分野」を狙って、住友林業など戸建て住宅メーカーもアパート事業に力を入れる。
相続税対策を狙うオーナー、アパートの建設代を得たい業者。空室が発生した場合、誰が責任を取るのか。直視しないまま、今もアパートは増え続ける。(岩本圭剛)

借地借家による宅地評価

借地権と貸宅地の評価

借地権の評価

  • 借地権

    借地法に規定する建物の所有を目的とする地上権及び賃借権のこと

借地権は借地法によって、その存続期間が保証され、またその期間満了時には原則的に賃借期間の更新が認められており、また建物の譲渡に伴ってその借地権も有償で譲渡することができます。
したがって、借地権の設定は、事実上土地の一部である土地の収益権の部分的譲渡に該当する行為に当たるもの考えられ、借りている側は借りている分の利益を得ていると考えれます。

借地権の評価=自用地としての価額x借地権割合

貸宅地の評価

  • 貸宅地

    地上権又は借地権の目的となっている宅地のこと

具体的には、土地の所有者が借地権者に賃貸して直接使用、収益させている状態にある宅地をいいます。
この場合には、土地所有者はその宅地に対する使用収益権は著しくげんたいするを借地権は借地法によって、その存続期間が保証され、またその期間満了時には原則的にこととなるため、その事情を考慮することとしています。

貸宅地の評価=自用地としての価額x(1-借地権割合)

借地権は借りている側の評価、貸宅地は課している側の評価となるため、それぞれの借地権割合で自用地としての価額を按分することになります。

貸家建付地の評価

貸家建付地の相続税評価

貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地をいいます。
したがって、具体的には土地所有者がその宅地の上にある自己所有者の建物を賃貸していることから、その建物の敷地となっていること宅地を借家人に間接的に使用収益させている状態にある宅地です。
第3者に賃貸している建物が建っている場合では、建物に居住している賃借人の借家権が生じているため、相続税評価を行う上では、居住者の借家権部分を一部考慮することで、評価額を減額することができる規定となっています。“すぐに売れない”=“換金価値が少し下がる”と言う考えに基づいています。

貸家建付地の評価=自用地としての価額x(1-借地権割合x借家権割合x賃貸割合)

  • 借地権割合

    →借地権割合は、地域ごとに路線価図により定められています。路線価図にA~Gの希望で定められており、以下の表の割合で借地権割合が決まっています。

記号
借地権割合 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30%

例えば、路線価図に255Cと記載のある道路に面した土地については、一平方メートル当たりの価額を千円単位で表示し、この場合255,000円/㎡で、借地権割合C=70%であることを示しています。

  • 借家権権割合

    →借家権割合は、全国一律で30%となっています。

  • 賃貸割合

    →例えば、アパートの部屋が10部屋あって、そのうち6部屋が賃貸で貸していて残り4部屋は空室であるような場合にはこの賃貸割合は10分の6、つまり60%となります。
    土地の上に立っている建物のうち、何%を貸しているかということを表します。厳密には貸している部屋の床面積で計算を行います。貸している部屋の合計面積が40㎡、貸していない部屋の合計面積が160㎡であった場合には、賃貸割合は200分の40となり、賃貸割合は20%ということになります。

貸家建付地評価の具体例

次のような前提条件の土地について、貸家建付地評価を行ってみます。

  • 地積(面積):100㎡。
  • 部屋数5部屋の貸アパートの敷地。
  • 5部屋の広さは同じで、このうち3部屋は賃貸しているが2部屋は空室。
  • 路線価図上、200Cの路線に面している。

「自用地とした場合の価額」は、各地補正等を省略すると、100㎡×200千円=2,000万円となります。
次に借地権割合は、路線価図上の記号がCということで70%となります。
そして、借家権割合は一律30%。
賃貸割合は、5分の3、つまり60%。
以上のような前提条件の土地について、貸家建付地評価を行うと
2,000 x(1 – 0.7x0.3x0.6)=1,748万円となります。

※借家人の有する宅地等に関する権利=自用地としての価額x借地権割合x借家権割合x賃貸割合

使用賃借による相続、遺贈又は贈与があった場合の土地の財産評価

使用貸借と賃貸借の違いは、その収益が対価を伴わず無償でなされる点にあります。

使用貸借に該当する場合 借りているものについて通常必要とされている費用に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎない場合
使用貸借に該当しない場合 無償であっても、それに代わる経済的利益の授受のある場合

借地権の設定が使用貸借契約に基づくものである場合においては、借地人の有する使用収益権の価額をゼロとして取り扱うため、贈与税の課税関係は生じません。

家屋の評価

家屋の評価単位は、原則として1棟ごとの家屋ごとに評価します。

自家家屋の評価

job_ooya家屋の評価=固定資産税評価額x倍率(常に1.0)

固定資産税評価額は、家屋課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録されてている基準年度の価格又は基準年度の価格に比準する価格をいいます。

貸家の評価

貸家の評価=自用家屋の価額x(1-借家権割合x賃貸割合)

借家権の目的となっている家屋に価額は、自用家屋としての評価額から借家権の価額を控除した金額によって評価します。

自用家屋=家屋の利用権+家屋の所有権
借家権割合=家屋の利用権/自用家屋

宅地の財産評価

宅地の財産評価

相続税の大きなウェートを占めると思われる宅地における相続税の財産評価について確認します。
遺産分割協議とかで不動産の価格をいくらで評価するかによって、特に相続人のうちの1人が共有している不動産を現物取得し、他の相続族人が金銭による代償分割という遺産分割方法する場合などは要注意です。

1物4価

一つの土地には、次の異なる4つの価格が成立するとされており、これを1物4価といいます。

  • 公示価格
  • 相続税評価額
  • 固定資産税評価額
  • 取引価格(時価)

地価と言われる取引価格は、売主と買主の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、公示価格は正常な価格として国土交通省が公示する価格を指し、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示されます。
その他の相続税評価額固定資産税評価額は、税金の額を決めるときの基準となるもので、毎年1月1日時点の価格が、7月に国税庁から公表されます。

地価公示、相続税路線価、固定資産税評価の相互関係

公示価格を100とすると、概ね相続税路線価を80、固定資産税評価額を70といった価格で均衡化が図られています。

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遺産分割時における相続不動産の時価評価

相続、遺贈または贈与により所得した財産の価額は、相続税評価額ではなく、取得の時における不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる取引価額(時価)で評価しなければならないことになっています!
そして、その財産の価額から控除すべき債務(住宅ローン)がある場合は、その時点のローン残高により課税価格は決まります。

相続税の課税価格

推定時価5,000万円の宅地の贈与を受けた場合、ここから住宅ローンの3,000万円と贈与税の基礎控除110万円を差し引くと、課税価格は1,890万円になります。

遺産分割時の評価額

相続人のうちの1人に相続によって共有状態になっている不動産を単独で相続させ、他の相続人は金銭による代償分割した場合、その相続財産の基礎となる不動産の評価額は時価でおこう事になります。
これを時価ではなく、相続税評価額や固定資産税評価額を元に評価され、遺産分割をした場合、代償分割された金額は多くの場合は過小に評価され、不公平に分配されることになります。
このように不動産については、不動産鑑定評価を活用されてるなりして適正な時価を求めれることが肝要です。

不動産の価額
遺産分割 取引価額(時価)
相続税の納付 相続税評価額
固定資産税の納付 固定資産税評価額

相続税評価額の評価方式

宅地の価額は、1画地の宅地(利用者の単位となっている1区画の宅地をいう)ごとに評価します。そして宅地及び宅地の上に存する権利の評価方式には、次の2つの方法があります。

路線価方式 倍率方式
概要 市街地的形態を形成する地域にある宅地(都会の方式) 市街地的形態を形成する地域にある宅地以外の宅地(田舎の方式)

路線価方式による評価

その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、がけ地や間口が狭かったり、奥行きが長かったり使い勝手の悪い宅地に関しては、その宅地の形状に応じた調整を行った金額に地積を乗じて評価することになります。

評価額=路線価x地積(実際の地積)

路線価とは、位置、形状等がその路線に面する標準的な画地1㎡当たりの価額(単位:千円)として、国税局長が評定したものです。
評価しようとする宅地が標準的なものと異なる場合には、各種の調整率によってその路線価を修正することになります。

路線価方式による評価の修正

  • 一方のみが路線に接する宅地

    →路線価x奥行価格補正率x地積

  • 正面と側方に路線がある宅地

    →(正面路線価x奥行価格補正率+側方路線価x奥行価格補正率x側方路線影響加算率)x地積

  • 正面と裏面に路線がある宅地

    →(正面路線価x奥行価格補正率+側方路線価x奥行価格補正率x二方路線影響加算率)x地積

  • がけ地等

    →路線価x奥行価格補正率xがけ地補正率x地積

  • 正面と側方に路線があるがけ地

    →(正面路線価x奥行価格補正率+側方路線価x奥行価格補正率x側方路線影響加算率)xがけ地補正率x地積

  • 不整形地

    →路線価x奥行価格補正率x(1-不整形地としての減価割合(100分の40の範囲内))x地積

  • 間口が狭小な宅地

    →路線価x奥行価格補正率x間口狭小補正率x地積

  • 奥行が長大な宅地

    →路線価x奥行価格補正率x奥行長大補正率x地積

  • セットバックを必要とする宅地の評価

    →利用制限が無いものとして算定した路線額-セットバックの対象となっている部分に対応する価額x70%

  • 奥行が長大な宅地

    →路線価x奥行価格補正率x奥行長大補正率x地積

私道の場合の路線価方式による評価の修正

私道を利用している者 私道の評価額
宅地の所有者のみ 自用地としての価額
上記以外の特定の者 自用地としての価額x30/100
不特定多数の者 評価しない

倍率方式による評価

倍率方式は、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとに定める倍率に乗じて計算した金額によって評価方式です。

評価額=固定資産税評価額x倍率

固定資産税評価額は、土地課税台帳または土地補充課税台帳に登録されている基準年度の価額又は基準年度の価格に比準する価格をいい、地方税法等の特例措置によって固定資産税の税額計算の基礎とされる課税標準ではありません
また倍率方式では、固定資産税評価額が決定される際に宅地の形状等が考慮されているので、路線価方式のように各種の補正率は用いません

数次相続による相続税

配偶者の相続税額の軽減

配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。(相続税法19条)

  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

この軽減措置を受ける注意としては、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象とはなりません。
ただし、相続税の申告書又は更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。

配偶者の相続税の軽減措置は有利なのか?

例)死亡時の本人(夫)の相続財産10,000万円・妻の相続財産4,000万円、相続人は妻と子1人の場合

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一次相続

まず夫が死亡して、妻と子1人が相続した場合
妻と子の法定相続割合は、それぞれ50%となります。

  • 基礎控除の金額= 3,000万円+600万円×2= 4,200万円
  • 課税遺産額= 10,000万円-4,200万円= 5,800円
  • 各人の法定相続分= 5,800万円÷2= 2,900万円

    この時の税率15%、控除額は50万円

  • 各人の相続税= 2,900万円×15/100-50万円= 385万円
  • 相続税の総額= 385万円×2= 770万円

妻の相続割合における一次相続時の相続税(万円)

相続税の総額×按分割合=算出相続税となるので、相続税の総額770万円を妻と子の実際の相続割合で按分して、各々の相続税を算出します。

妻の相続割合 一次相続合計
相続財産 相続税 相続税 相続税
100% 10,000 0 0 0
90% 9,000 0 77 77
80% 8,000 0 154 154
70% 7,000 0 231 231
60% 6,000 0 308 308
50% 5,000 0 385 385
40% 4,000 0 462 462
30% 3,000 0 539 539
20% 2,000 0 616 616
10% 1,000 0 693 693
0% 0 0 770 770

二次相続

次に妻が死亡して、子1人が相続した場合

  • 基礎控除の金額= 3,000万円+600万円×1= 3,600万円
  • 課税遺産額= 夫からの相続額+4,000万円-3,600万円
概要 改正後
1000万円以下 10%(控除額 0万円)
3000万円以下 15%(控除額 50万円)
5000万円以下 20%(控除額 200万円)
1億円以下 30%(控除額 700万円)
2億円以下 40%(控除額 1,700万円)

妻の相続割合における二次相続時の相続税(万円)

  • 2次相続税額= 課税遺産額×相続税率/100-控除額
  • 数次相続税額= 1次相続税額+2次相続税額
妻の相続割合 一次相続税 二次相続 相続税合計
相続財産 課税遺産額 相続税率 控除額 相続税
100% 0 14,000 10,400 40% 1,700 2,460 2,460
90% 77 13,000 9,400 30% 700 2,120 2,197
80% 154 12,000 8,400 30% 700 1,820 1,974
70% 231 11,000 7,400 30% 700 1,520 1,751
60% 308 10,000 6,400 30% 700 1,220 1,528
50% 385 9,000 5,400 30% 700 920 1305
40% 462 8,000 4,400 20% 200 680 1,142
30% 539 7,000 3,400 20% 200 480 1,019
20% 616 6,000 2,400 15% 50 310 926
10% 693 5,000 1,400 15% 50 160 853
0% 770 4,000 400 10% 0 40 810

数次相続による相続税

配偶者の相続税額が軽減されたとしても、数次相続では節税したことにならない

上記の例は、夫が亡くなり妻と子供が相続した後、妻が亡くなり子供1人が相続する場合の数次相続の相続税のシミュレーションです。
上記の表より数次相続による相続税の合計額としては、妻と子供が相続する時に必ずしも配偶者の相続税額の軽減を利用したとしても、数次相続した場合の相続税額として有利にならないことが分かります。

ただ上記の例では、夫が死亡してから妻が死亡するまでの間で、贈与を行うなどの相続税対策を考慮しておりませんので、これらの相続税対策を行うことで、配偶者の相続税額の軽減を利用することも有効な手段となる場合も有ります。
男性と女性の平均寿命や、各家庭におけるさまざま事情を考慮し、1次相続における適正割合を決められることが数次相続による相続税の節税には有効となります。

生前贈与と特別受益

贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日から遡って3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた時の贈与財産の価額を加算します。
また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります。(相続税法19条)

1.加算する贈与財産の範囲

被相続人から生前に贈与された財産のうち相続開始前3年以内に贈与されたものです。3年以内であれば贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算します。
したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。

2.加算しない贈与財産の範囲

被相続人から生前に贈与された財産であっても、次の財産については加算する必要はありません。

  • 贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
  • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

3.控除する贈与税額

控除する贈与税額は、相続税の課税価格に加算された贈与財産に係る贈与税の税額です。ただし、加算税、延滞税、利子税の額は含まれません。

特別受益の持ち戻し

相続発生3年以内の贈与財産は相続財産として持ち戻して計算することになります。言い換えれば相続が発生した時から3年を超えた生前贈与については、既に贈与税を納付して被相続人の財産から切り離されているものですから、相続税を計算する為の課税対象には含まれません。

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しかし民法上の処理は異なり、遺産分割の際にはそれらの財産を含めて相続分を計算しなければなりません。
このとき該当する贈与や遺贈の事を「特別受益」といい、それらを遺産に含める事を「特別受益の持ち戻し」といいます。

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1.特別受益の持ち戻し

例えば、死亡時の相続財産1,200万円、相続人は子2人(長男と長女)、相続人の子の長男が2,000万円の生前贈与を受けていた場合

民法903条1項により。相続財産は3,200万円として計算されます。これをみなし相続財産といいます。
相続人が2人なので、1人あたり相続分は1,600万円ずつとなります。

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しかし現実には相続財産が1,200万円しかないため、生前贈与を受けていない方の相続分は1,200万円だけということになります。
民法903条2項により、相続できるはずだった足りない400万円を、生前贈与を受けた相続人に対して支払ってもらうような請求はできません。

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2.持ち戻しの免除

ここで民法903条3項には、持ち戻しの免除という制度があります。
被相続人が遺言で、贈与(生前贈与、遺贈)した金額に対して、「相続のときに持ち戻さなくてよい」という意思表示することができます。
この場合、生前贈与の持ち戻しがされません。

現実に残っている1,200万円なので、1人600万円ずつ相続することになります。
2,000万円の生前贈与を受けている相続人は、トータル2,600万円をもらうことになり、一方は600万円しかもらえない結果となります。
特別受益が相続分を超えていたとしても、他の相続人に超えていた分を支払う必要はありません。

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3.遺留分

しかし特別受益が他の相続人の遺留分を侵害していた場合、他の相続人による遺留分減殺請求によって、特別受益者は遺留分を侵害した分を支払う事になります。
被相続人が「特別受益を財産に加えない」という意思を遺言で表示している場合は、特別受益を持ち戻さない事も可能ですが、それでも遺留分の制限は受けることにはなるのです。

みなし相続財産から計算すると800万円が遺留分となります。
持ち戻しを免除された結果、600万円しか手元に残らなかった相続人は、遺留分に足りない200万円を生前贈与を受けた相続人に請求できることができます。

特別受益者の相続分(民法903条)

  • 1.共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
  • 2.遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
  • 3.被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

特別受益の価値

特別受益の価値は「相続が発生した時点での価値」となります。2,000万円の土地を生前贈与で受けとた場合、相続発生時にその土地が3,000万円になっていたら、その土地の価値は3,000万円となります。

平成27年施行の相続税改正

平成27年1月1日以降開始の相続から、相続税が増税となりました。
ここでは大きく改正されたポイントによって、どれくらい増税になるのかを検証します。

基礎控除額の改正

改正前 改正後
概要 5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数) 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例:親が死亡し法定相続人が子供2人で、相続財産の合計が5,000万円の場合

改正前の基礎控除の計算方法

  • 基礎控除の金額 5,000万円+1,000万円×2 = 7,000万円
  • 相続財産5,000万円 < 基礎控除額7,000万円

    ⇒基礎控除が相続財産を上回るので相続税の納税なし。

改正後の基礎控除の計算方法

  • 基礎控除の金額 3,000万円+600万円×2 = 4,200万円
  • 相続財産5,000万円 > 基礎控除額4,200万円

    ⇒相続財産が基礎控除を上回るので相続税の納税が発生。

税率の改正

概要 改正前 改正後
1000万
円以下
10%(控除額 0万円) 10%(控除額 0万円)
3000万
円以下
15%(控除額 50万円) 15%(控除額 50万円)
5000万
円以下
20%(控除額 200万円) 20%(控除額 200万円)
1億円
以下
30%(控除額 700万円) 30%(控除額 700万円)
2億円
以下
40%(控除額 1,700万円) 40%(控除額 1,700万円)
3億円
以下
40%(控除額 1,700万円) 45%(控除額 2,700万円)
6億円
以下
50%(控除額 4,700万円) 50%(控除額 4,200万円)
6億円
50%(控除額 4,700万円) 55%(控除額 7,200万円)

各法定相続人の所得金額が2億円超から3億円以下の部分は40%から45%へ引き上げられ、6億円超の部分は50%から55%へ引き上げられました。

相続税の増加額

さて上記の基礎控除額の改正と税率の改正により、どれくらい増税になるのかを検証します。
例:親が死亡し法定相続人が子供2人で、相続財産の合計が50,000万円の場合

改正前の相続税の総額の計算方法

  • 基礎控除の金額= 5,000万円+1,000万円×2= 7,000万円
  • 課税遺産額= 50,000万円-7,000万円= 43,000円
  • 子供1人の法定相続分= 43,000万円÷2= 21,500万円

    この時の税率40%、控除額は1,700万円

  • 子供1人の相続税= 21,500万円×40/100-1,700万円= 6,900万円
  • 相続税の総額= 6,900万円×2= 13,800万円

改正後の相続税の総額の計算方法

  • 基礎控除の金額= 3,000万円+600万円×2= 4,200万円
  • 課税遺産額= 50,000万円-4,200万円= 45,800円
  • 子供1人の法定相続分= 45,800万円÷2= 22,900万円

    この時の税率45%、控除額は2,700万円

  • 子供1人の相続税= 22,900万円×45/100-2,700万円= 7,605万円
  • 相続税の総額= 7,605万円×2= 15,210万円

上記より親が死亡し法定相続人が子供2人で、相続財産の合計が50,000万円の場合、改正後15,210万円-改正前13,800万円=1,410万円の増税となることが分かります。

改正後の相続財産による増加額例

課税価格 相続税
改正前 現行 差額
5,000万円 0円 80万円 80万円
1億円 350万円 770万円 420万円
3億円 5,800万円 6,920万円 1,120万円
5億円 1億3,800万円 1億5,210万円 1,410万円
10億円 3億7,100万円 3億9,500万円 2,400万円